広葉樹活用の中心地へ。飛騨市から日本の林業界に革命を起こす。

飛騨市役所
市長
都竹淳也

飛騨市長を務める都竹淳也さんに、「広葉樹のまちづくり」から飛騨市の取り組みのことまでインタビューさせていただきました。

ーー 早速ですが、飛騨市の「広葉樹のまちづくり」とはなにか教えてください。

都竹淳也(以下、都竹):飛騨市は2014年から「広葉樹のまちづくり」に取り組み始めました。薪かチップにしかならないと思われていた広葉樹の価値を高めていくのは、全国的にも非常にチャレンジングな取り組みです。日本では戦時中に、燃料不足からあらゆる山を伐採しました。戦後、とくに高度経済成長期以降は住宅需要が一気に高まり、建材としての活用が中心となります。この二つの要素が重なり、スギ・ヒノキなどの人工林は植樹に対して補助金が出て、かつ取引価格も高いために林業の最盛期を迎えました。しかし、それが安価な外材の輸入や、住宅需要の低迷などで徐々に利用が減り、今日の林業へと至っています。

ーー たしかに住宅用の建材には、広葉樹のような節や曲がりがある材は向かないですね。

都竹:その通りで、「木材需要=住宅用の建材」の構図から抜け出せない限り、広葉樹のような、節があり曲がっていて色も違う材を使うのは非常にコストパフォーマンスが悪いですよね。そのため、広葉樹は「豊かな森をつくろう」といった環境保護的な文脈でしか注目されていません。しかしながら、経済的な循環がなければ、持続可能な山林はつくれません。ましてや、日本の国土における森林面積の割合は大きく、当然ながら広葉樹も多く含まれています。広葉樹の価値を高めることは日本の森林にも大きな影響があり、日本の山を変える可能性を持つ、非常に意義あるプロジェクトであると認識しています。

ーー なぜ、これまで他の自治体では挑戦できなかったのでしょうか?

都竹:まず前提としまして、スギ・ヒノキといった人工林への対策自体があまりにも規模が大きく、かなりのエネルギーが割かれています。簡単に言えば、スギやヒノキの間伐で精一杯でとても広葉樹まで手が回らないということです。そうした中で、なぜ飛騨市が広葉樹に取り組めるのかと申しますと、二つの事業体の存在が大きいのです。

ーー 二つの事業体ですか?

都竹:一つ目の事業体は、非常に優秀な「飛騨市森林組合」の存在です。全国に冠たる生産性を有しており、しっかりと事業として回っている飛騨市森林組合は飛騨市の誇りといっても差し支えありません。これが事業体として赤字であったり、間伐などの優先的な業務が滞っていたら、市としてもまずはそちらを支援する必要があります。広葉樹のまちづくりを進められる基礎の部分が非常に優秀であるために、次のステップに進めています。

ーー 二つ目はどういった事業体でしょうか?

都竹:二つ目の事業体は、全国的にも非常に珍しい広葉樹を専門とする「株式会社西野製材所」の存在です。伐採した木材をこの街で製材できることで、広葉樹のまちづくりという街単位の話にまでコンセプトを広げられています。また、木の国、山の国である飛騨には多くの木工作家さんがいらっしゃいます。そして、市では企画立案できない部分を「株式会社 飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)」が形にしています。こうした土壌が育っているからこそ、広葉樹のまちづくりの取り組みがスタートできました。

ーー 広葉樹にフォーカスした取り組みを始められたことには、時代背景などもありますか?

都竹:先ほど話した通り、これが高度経済成長期の時代であれば、人口増加に伴う住宅需要の高まりから、均質的な住宅を一気に増やそうと、針葉樹の活用や生育に力が入りますね。ですが、現代社会は人口減少かつ低成長で、一人一人の個性と価値をどう発展させるかが大きな問いとなっています。簡潔に言えば、多様性の時代です。そんな時代の流れが、広葉樹の活用と文脈的に一致していて共感性を得やすいのは追い風ですね。

ーー 多くの飛騨市民にとってこの取り組みはどう実感されるものなのでしょうか?

都竹:前提としまして、市の政策と市民の生活は連動していないことの方が多いです。例えば、観光関連の政策の影響で大勢の観光客が飛騨市にいらっしゃっても、直接的に収入が増える方はごく一部です。他には、飛騨市では高齢者介護に力を入れていますが、おうちに要介護者がいない世帯ではあまり実感がないですよね。市政とはそういうものです。本当は、広葉樹の恵みが育んだ豊かな水が流れているから、飛騨のお米や野菜、お酒が美味しいのだと言いたいです。しかし、残念ながら取水して分析しても数字としての根拠は出ないんですね。それでも「殿川の水じゃないとダメ」と言う農家の方は大勢いらっしゃって、実際に美味しいことは間違いないので、広葉樹の恵みをイメージで味わっていただきたいです。

ーー そうした現状の中で、市長はなにを大事にされて取り組まれていますか?

都竹:広葉樹のまちづくりに限らず、私が大事にしたいのは「1.1力」です。「飛騨市がまたユニークな活動をしている!」「先進的に取り組んでいるぞ!」そうしたイメージが市民のマインドに与える影響は絶大です。じゃあ私も挑戦してみようかと市民が前向きになり、普段より「0.1」でも多く進む力が生まれる。これが23,000人分集まったらえらいことですよね。

ーー ワクワク感や期待感を市民と共有することが一番、市民の利益になるということですかね?

都竹:どうも現代行政は、妙なコスト(時間と予算)・ベネフィット(便益・効果)分析に縛られて、目に見えない気持ちや空気の変化が評価されないですよね。でも本来、まちづくりというのはそう簡単に数字には換算できないものです。ましてや、本当に投資対効果があるのなら、民間企業や商工団体が行うべきでしょう。採算を度外視してでも街のためになることだから、役所が税金を使って行うのです。私は市政をそう捉えています。

ーー 今後、広葉樹のまちづくりはどう展開されるのでしょうか?

都竹:2021年、広葉樹のまちづくりは第3ステージに来ています。取り組みを始めた初年度の第1ステージでは、ひたすら広葉樹の活用を模索していました。なにかの形にして出せるんだと分かり、体制を整えて仲間づくりや連携を進めたのが第2ステージですね。その結果の一つがヒダクマさんであり、「ひだ木フト」のプロジェクトです。そうした実績をもとに、コンソーシアムのようなコミュニティを構築し、広葉樹のまちづくりを可視化してきたのが現在の第3ステージと言えます。広葉樹の流通システムや、森そのものの価値を見たり体験したりするコンテンツも整備できてきました。

ーー 第3ステージ以降はどんな展開をイメージされているのでしょうか?

都竹:面白いのはこれからです。飛騨市に続く自治体や、仲間になる団体が間違いなく出てきます。そうした自治体と横連携を図っていくのが第4ステージです。この第4ステージが盛り上がると、国策として日本全体の林業や木材の活用の中で広葉樹の可能性が広がっていきます。そのときに、先行者は必ず利益を享受できるし、いろんな声がかかります。この飛騨市が、国内の広葉樹活用の先進地であり、先進地が中心地となります。

ーー 最後に、広葉樹のまちづくりに取り組む 都竹市長の意気込みを教えてください。

まだまだ険しい道のりですが、国土面積の2/3を森林が占める日本にとって、大きな影響をもたらすプロジェクトだと認識しています。遠くない将来、日本の林業や木材活用の中で広葉樹の可能性が日の目を浴びたとき、広葉樹のまちづくりに取り組み続けてきた飛騨市は、知恵や人材が集まる中心地となります。そんな日本の林業界に革命を起こすプロジェクトがこの飛騨市で進んでいます。実現に欠かせないキーパーソンがこの街に住んでいます。ぜひ、一緒にワクワクしていただき、「広葉樹のまちづくり」プロジェクトを応援していただけましたら幸いです。

ーー 本日はありがとうございました。
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