広葉樹のまちづくりは、生産者と作り手とお客さんを、川上から川下までつなげる一種の物語

kino workshop 
片岡 清英・紀子

kino workshop  片岡 清英さん・紀子さんご夫妻に、「広葉樹のまちづくり」から作品づくりのことまでインタビューさせていただきました。

ーー お二人が今のお仕事を始められたきっかけを教えてください。

片岡 清英(以下、清英):私たち夫婦はそれぞれ岐阜県可児市と不破郡垂井町の出身です。高山市の「高山高等技能専門校(現 木工芸術スクール)」に通って木工の勉強をして、高山の木工家具メーカーに勤めた後に独立しました。

片岡 紀子(以下、紀子):2000年に結婚して、夫婦で「kino workshop」という屋号で作品づくりの活動を始めます。元々は他の作り手さんたちと工房をシェアしていたのですが、徐々にたくさんの機械も必要となり、縁あってこの場所に工房 兼 住宅を建てました。ギャラリー「キノテンジシツ」の部分は2016年に増築して、作品を見たい方にも対応できるようにしています。

ーー お二人はどういうきっかけで木工の世界に入られたのですか?

紀子:私は建築の勉強をしていたのでその延長ですね。自分で作ることを実感できるものづくりに携わりたくて、小さな世界で実現できる木工にたどり着きました。

清英:僕は木工の仕事はよく分からなかったです。僕が大学を出た頃はバブルの時代で、先のことを考えない人ばかりでした。僕もその一人で、その日暮らしをしながら、お金が貯まると旅に出るような自由気ままなフリーター。30歳直前になって、サラリーマンじゃなくてなにか技術を身につけられないかとようやく考え始めました。そんな時に木工芸術スクールを知って、1年間のカリキュラムだったから旅に出たと思えばいいかなって(笑)。それくらいきっかけは軽い気持ちだったんですが、やってみたら面白かったです。

紀子:木工芸術スクールを卒業した後は、二人とも同じ木工家具メーカーで働いていました。私は特注家具を製作する部署にいまして、オーダーメイドなので部材も一から考えて作るんですね。大変ではありましたが、いろんな手法を試すことができて、のびのびと作れる環境が楽しかったですね。

清英:僕は生産ラインで働いてましたが、最終的には企画で図面を描いたり、営業もしていました。しかしある時、誰に向かって家具を作っているのかを見失った時期があったんです。飛騨地方には木工家具メーカーが多数あり、家具屋さんには飛騨の家具コーナーがあります。しかしながら、そうなると限られた売り場で埋没しない家具を作ろうとして、日常的に使う家具のイメージから離れてしまうんですね。

ーー それが独立のきっかけの一つだったのでしょうか?

清英:昔から物が好きで、バブルの頃は学生でもお金があったので、良い服や靴、器とか好奇心の赴くままに買っていました。同じ物でもグレードの違う物をいっぱい買って、使ってみる経験がバックグラウンドにあったんですかね。ずっと、自分の感覚に合う家具がないなと感じていたのです。

紀子:私たちは佇まいがひっそりした家具が好きなんです。

清英:そうそう。犬のように主張はせず、猫みたいに寄り添ってくれる家具みたいな(笑)。

紀子:自分たちが好きで、感覚に合う家具を作りたい。そんな想いから独立して、「kino workshop」という屋号で、二人で一つの物を作っています。

ーー お二人でものづくりをするとは、どんな役割分担でおこなっているのですか?

清英:僕は身体が大きいので、乾燥からあがってきた板を引き取りに行って、材料の管理と力仕事がメインですかね。実際の作業で材木を削ったり、切ったりするのは紀子さんが多いかな。

紀子:でも木取りは清英さんの担当です。木取りって適性があるんですよ。私はあきらめが早い性格で(笑)。木取りは粘り強さが必要な根気のいる作業なので、清英さんの方が性格的に向いています。作家の世界では個人名を押し出すのが大事らしくて、共同で一つの作品を作るのは珍しいみたいですね。お互いの好きなモノの基準が近いから仕事ができるんでしょうね。

ーー ありがとうございます。では、本題の「広葉樹のまちづくり」とはどんな関わりをされているのでしょうか?

清英:取り組みの一番最初の時期に、飛騨市役所の竹田さんから電話をもらいました。林業振興課ができる前の時期ですかね。当時は「竹田って誰だ?」って感じでした(笑)。

紀子:でも、じわじわと飛騨市の本気度が伝わってきましたね。

清英:実際に広葉樹のまちづくりが始まってからは、コンソーシアムに参加させていただき、作り手の私たちも山に入って木について勉強させてもらいました。広葉樹の素材の特性は知っていましたが、どんな風に生育するかとか木そのものについては全然知らなかったです。大変勉強になりました。

紀子:ものづくりの面では「ひだ木フト」のプロジェクトに参加して、市有林から伐採された広葉樹を使用した作品を考えました。いつも私たちが仕入れていた広葉樹は直径30cm以上の丸太が多かった中で、飛騨市の広葉樹は直径24cm~26cmくらいの小径木が多い。しかしながら、飛騨市の広葉樹にはいろんな樹種があるため、楽しく新たな作品づくりに挑戦できました。

ーー お二人は「広葉樹のまちづくり」をどう捉えられているのでしょうか?

清英:広葉樹のまちづくりは、生産者と作り手とお客さんを、川上から川下までつなげる一種の物語だと捉えています。その一つが、作り手である僕らが生産者の元や飛騨市の山林に入って、直接的に広葉樹に触れる機会でした。

紀子:飛騨市の広葉樹は持続可能な木材であることを伝えたいですね。例えば、ある作品を作るために切った山が10年後どうなっているのか。これまでは想像もつきませんでしたが、飛騨市では定点観測してくださって、山林の移り変わりを記録してくださっています。

清英:これはすごくありがたい取り組みで、お客さんにとっても目の前の作品を通じて川上である飛騨市の山林のイメージがつきますし、10年という時間軸で森を感じられる。僕らも自信をもって「飛騨市の広葉樹を使っています!」と言えますね。

ーー 最後に、飛騨市の皆さまにお伝えしたいメッセージはありますか?

紀子:まずは一つ、広葉樹の物を暮らしの中で使ってみてほしいです。飛騨市という恵まれた土地に住んでいるので、ぜひ森に想いを馳せてみてください。

清英:広葉樹のまちづくりは山で働く人の仕事を作り、山に全く関係ない人にも触れる機会を作る、貴重な取り組みをしています。今後も継続していくことが大事ですね。私たちもできることで応援していきます。

ーー 本日はありがとうございました。
店名kino workshop  片岡 清英・紀子
営業時間10時〜17時 (キノテンジシツ)
住所飛騨市古川町太江490
定休日不定休
ホームページhttps://www.kinoworkshop.com/
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