「木が乾燥プログラムを教えてくれる」
活動・実績紹介
広葉樹人工乾燥の技術研修へ
コンソーシアム会員である企業さんにご協力いただき、飛騨市代表として、広葉樹人工乾燥の技術研修に伺いました。約4ヶ月ほど、インターンシップ扱いで通わせていただき、実践を通して、広葉樹の人工乾燥プログラムや運用面の改良に取り組みました。緊急事態宣言中だったこともあり、なかなか本来の活動がままならない時期に、こうして技術的なチャレンジができ、本当に有意義な時間を過ごすことができました。
そもそもなぜ、広葉樹人工乾燥の技術研修をすることになったのかというと、実は現在、飛騨市では、市内に人工乾燥機を導入する計画を進めています。飛騨市が進めてきた広葉樹のまちづくり事業の中でも、かなり大きなチャレンジになります。
これに向けて、市内になかった木材乾燥技術を習得する必要があり、広葉樹人工乾燥の技術研修をする運びとなりました。
さらに今回のプロジェクトでは、天然乾燥なしで広葉樹を乾燥させるチャレンジをします。広葉樹というと、針葉樹に比べて、木材比重が高い分、乾燥速度が遅いのが特徴です。乾燥の進みにくさは、木材内部に含水傾斜を生み、割れ等の欠点が生じやすくなります。また、広葉樹は木材内部の応力が強いため、乾燥過程で狂いやすいというのも特徴的です。こうした要素が絡み合い、広葉樹乾燥はとても難しい技術とされます。
したがって、これまでの方法では、広葉樹材を天然乾燥で1年以上かけて、ゆっくり乾燥させることで、そうした狂いやすさを軽減していました。自然の力に任せて、ある程度の含水率まで水分量を落とし、そこから仕上げで人工乾燥にかけるというやり方が一般的でした。
自然がコントロールしてくれた乾燥品質を、人工乾燥で実現させるという試みは、とても難しい技術である一方で、技術者としては腕の鳴るチャレンジングな挑戦でもあります。天然乾燥なしでの人工乾燥技術が確立されれば、これまで1年以上かけて納品していた商品が、3ヶ月程度で納品できる可能性が出てきます。商売チャンスがぐっと広がり、マーケットでの地域産広葉樹の競争力が出てきます。そんな夢のある技術へのチャレンジを、コンソーシアム会員企業さんと一緒に試みており、そのための準備として、約4ヶ月もの間、技術研修に通わせていただいた次第です。
広葉樹乾燥の面白さたるや
僕自身、前職にて木材乾燥業務にあたっていたので、針葉樹の木材乾燥経験はありました。地味に木材乾燥士の資格も取得しています。
ただし、当時はリフトを乗り回していたばっかりで、プログラムについてはそれほど深くは理解していませんでした。現場レベルにおいて、木材乾燥が確固とした乾燥理論で語られることは、非常に稀でした。感覚的かつ経験則的に語られることが多く、再現性が低い分野になってしまっています。
針葉樹だからこそ、経験則的な技術が成り立つ部分はたしかにあり、なにせ大規模製材工場の場合、圧倒的な場数を踏むことができるので、それでカバーできてしまう部分があると思います。並材生産を主とすると、高単価品は少ない上、集成用ラミナ等や梱包材などの販路上の逃げ道もあり、失敗のリスクも低く済みます。
広葉樹の場合、そういうわけにはいきません。木材としての性質以前に、こうした広葉樹を取り巻く環境条件が異なります。人工乾燥にかかる期間が長い上、物量も限られるため、場数もまた限られてきます。高単価品も多くあり、失敗のリスクが高い商品になります。また、販路上の逃げ道が少なく、乾燥に失敗した材の在庫リスクが高い傾向にあります。
つまり、広葉樹乾燥には、「経験則+α=科学的根拠と予測」が重要になります。
目の前で起きている事象を現場的感覚で捉え、科学的根拠をもって分析し、仮説をたて、検証していくプロセスが必要になります。そうすることで、乾燥機1回転分から得られるフィードバックの質を、可能な限り上げていくことが求められます。
これまで針葉樹の人工乾燥において、ぼやっと理解していた技術を、理論的に整理しなければならず、自分自身、とても成長することができたように思います。研修先の担当者さんに、乾燥を研究分野とされる方がいらっしゃったことが、なによりも大きな学びへと繋がりました。自分に足りなかった部分を補うことができ、木材乾燥という技術への解像度がぐんと上がった気がします。
広葉樹人工乾燥の技術研修は、一旦、6月中旬にて切り上げましたが、今度は新しい乾燥機での本番&試験になります。やればやるほど、結果が返ってくる技術の世界は、やはり興味が尽きず、あるとき「木が乾燥プログラムを教えてくれる」ような感覚をもちました。毎日のデータ採取を通して蓄積されていくデータのなかに、ちゃんと木からのメッセージが込められているように思えてきます。叙情的な表現にはなりますが、木との対話を通して、自然な乾燥プログラムができるんじゃないかなと、そんなことを夢見ながら、これから広葉樹人工乾燥の技術向上に努めていきたいと思います。